【学会員紹介#12】 麻田 正仁(帯広畜産大学 原虫病研究センター 地球規模感染症学分野 准教授)

キャリアの原点と研究への情熱:寄生虫と免疫に魅せられて

重富:
先生のこれまでのキャリアについて教えてください。

麻田:
私は東京大学農学部の獣医学課程出身で、もともとはリーシュマニアとマラリアの研究をしていました。卒業時に、現在東京大学で応用免疫学の教授を務められている先輩の後藤康之先生(https://tjstm.jp/tropical-medicine/1694/)から帯広畜産大学原虫病研究センターをご紹介いただき、河津信一郎先生のもとでバベシア原虫*の研究を始めました。その中で、フィリピンをはじめ、海外へ足を運ぶようになりました。

*バベシア原虫:マラリア原虫に比較的近縁の、マダニが媒介する原虫。動物やヒトのバベシア症の原因となる。

また、国内での共同研究先の一つが、長崎大学熱帯医学研究所の金子修先生の研究室でした。2012年に、金子先生にお声がけいただき、長崎大学博士課程教育リーディングプログラム「熱帯病・新興感染症制御グローバルリーダー育成プログラム」の助教に着任しました。そこでの6年半はマラリアの研究に携わりつつ、マラリアとも関連する、脳バベシア症や偶蹄類マラリア*の研究を始めました。その後、2019年に准教授として帯広畜産大学へ戻り、現在のキャリアに至ります。

*偶蹄類マラリア:偶蹄目(2本や4本など偶数のひづめ)の哺乳類に感染するマラリア原虫が引き起こす感染症。

重富:
現在はどのようなご研究をされているのですか。

麻田:
バべシア症やマラリアを対象に、新規予防・治療法の開発に向け、その赤血球寄生機構の解明を行っています。バべシア症は「家畜」の、マラリアは「ヒト」の原虫病における最重要疾患の一つです。バべシア原虫とマラリア原虫の比較を念頭に、主に獣医学分野から両原虫病のコントロールに向けた基礎研究を展開しています。

重富:
動物とヒト、それぞれの領域で「最重要」とされる疾患の研究に挑まれているのですね。

重富:
現在のお仕事に至ったきっかけや背景を教えてください。

麻田:
もともと免疫学に強い興味がありました。学生時代、松本芳嗣先生*の授業を受けたことで寄生虫という存在に惹かれ、寄生虫の免疫研究を行っている東京大学の応用免疫学研究室に入りました。 特にリーシュマニア原虫への興味が大きかったですね。本来なら免疫によって排除されるべきマクロファージの中へ侵入し、そこで増殖していく。この「なぜやっつけられるはずの場所で増殖するのか」という謎が、研究の大きなモチベーションになりました。

*松本芳嗣先生:現・東京大学 名誉教授 https://tjstm.jp/tropical-medicine/1694/

重富:
学生時代の講義や先生との出会いが、現在のご研究につながっているのですね。
キャリアにおいて影響を受けた方はいらっしゃいますか。

麻田:
直接の師事ではありませんが、相川正道先生*の影響を強く受けています。相川先生はバベシア症とマラリアの比較研究もされており、その研究が現在の私の研究指針における重要な礎となっています。

*米国Case Western Reserve University教授、東海大学教授、東京大学客員教授、2004年逝去。

重富:
研究の道に進むと決めたのはいつですか。臨床(獣医師)と迷うことはありましたか。

麻田:
実は臨床医と迷ったことはありません。学生の時からもともと研究者になりたいと思っていました。

重富:
そうだったのですね。
最先端の技術(遺伝子組換え技術など)を研究に用いると決めた時期やきっかけ、その面白さを教えてください。

麻田:
大学院生の頃、光るリーシュマニア原虫を初めて目にして、自分でも同じようなものを作ってみたいと考えるようになりました。当時所属していた研究室にはそのノウハウがなく、その中で試行錯誤を重ねていました。その過程で、後藤先生が学生時代に、河津先生のもとで技術を習得されていたことを知りました。その後、キャリアで軽くお話しした通り、原虫病研究センターの河津先生の下で遺伝子組換え技術の開発に関する研究を行う機会に恵まれ、光るバべシア原虫の製作に至りました。

2026年 帯広畜産大学にて、原虫病についてご説明される麻田先生。
ゲノム編集によって緑色に光るバべシア原虫

スイギュウマラリアと未解明の原虫:100年の空白を埋める知的好奇心

重富:
タイのスイギュウの研究において、これまで未知だった実態が解明されたきっかけを教えてください。

麻田:
実は、当時在籍していた研究室の金子修先生の「趣味」に近い探究心がきっかけでした。金子先生が文献を読み込む中で、偶蹄類マラリアに関する記述を見つけ、長年構想を温めていらっしゃったのです。私が獣医学のバックグラウンドを持っていたため、「私ならそのフィールド研究ができます」と手を挙げたことでプロジェクトが始動しました。

重富:
金子先生の長年の構想と、麻田先生の獣医学としての専門性が合致したことが、研究の大きな転換点となったのですね。

重富:
「家畜のマラリア原虫」や「バベシア原虫」を研究対象とすることの面白さは何でしょうか。

麻田:
マラリア原虫の祖先はおそらく鳥類や爬虫類に寄生していたと考えられています。それがどうやって哺乳類に適応し、さらにヒトへと宿主域を広げたのか。その進化のプロセスを探ることは、非常に価値のある研究です。また、こうした周辺領域の研究を深めることは、最終的にはヒトの健康や医学への貢献にもつながると信じています。

重富:
原虫の進化をたどることがヒトの健康に寄与するという信念に、基礎研究の持つ真の価値を感じました。

重富:
現在のお仕事の面白さ、やりがいについて教えてください。

麻田:
過去に報告はあるものの、その後100年近く誰も手をつけていなかったような領域を、自分の手で明らかにしていけるのは純粋に楽しいですね。マイナーな研究領域かもしれませんが、それを通じてマラリア原虫の進化や宿主への適応戦略が分かるというところが面白く、それが原動力となって研究を進めています。

2018年、タイでの偶蹄類マラリア調査時の写真。右から6人目が麻田先生。

ラボとフィールドの「二刀流」:広い視野を持ち続けるために

重富:
ラボでの研究と海外でのフィールド研究をどちらも行うことの醍醐味を教えてください。

麻田:
私自身、海外に行くこと自体がすごく楽しいんですよね。海外に行っていろいろなものを見て、いろいろな経験をする、その中にフィールド研究があると考えています。 真面目な話をすれば、ラボの中だけで研究していると、どうしてもフラスコの中の原虫しか見なくなってしまいます。現地の環境や、実際に起こっていることを無視した薬品・ワクチンの開発や議論に陥らないように、常にフィールドの状況を頭に入れておくことが不可欠だと考えています。

重富:
両方の研究を行うことで視野を広く持ち続けることができるのですね。

麻田:
そうですね。偏った研究にならないようにすることを念頭に置いて研究を行っています。

熱帯医学における獣医学の視点と日本の役割

重富:
獣医学の視点が、熱帯医学の中で活きていると感じる瞬間はありますか。

麻田:
「動物からサンプリングを行い、研究を進められる」という点は大きな強みです。また、獣医学教育を通じて生理学や解剖学、実験動物学などを網羅的に学んでいるため、現場での即戦力として評価していただけることが多いと感じます。ウシ、ヤギ、イヌなど多彩な動物から採血できる点や、海外でスムーズに獣医さんや農家の方とコミュニケーションを取ったり、家畜衛生を考慮した仕事ができる点は強みだと思います

重富:
サンプリングからラボワークまでを一貫して担えるところが強みなのですね。

重富:
日本が熱帯医学に関わり、貢献する意義は何でしょうか。

麻田:
日本はマラリアや狂犬病といった熱帯病を根絶させた、特異的な成功体験を持つ国です。島という環境的要因も大きく影響していますが、根絶させるプロセスで培われた知見や技術を、現在も熱帯病に苦しむ国々へ還元していくことには大きな意義があると考えています。

重富:
根絶の歴史を、現代の熱帯病対策に還元できることが日本の強みなのですね。

ライフワークとなる研究:好奇心と行動力

重富:
先生の今後の目標や夢、やりたいことを教えてください。

麻田:
ヒトのマラリア原虫に比べて、周辺領域のバベシア原虫やタイレリア原虫*については、「生物としてどういう存在なのか」ということがまだまだ解明されていません。どこの細胞で増え、どう媒介されているのか。こうした細かな謎を分子生物学的に解き明かすことを、生涯のライフワークにしたいと考えています。あとは、面白いフィールドを見つけたら現地へ足を運ぼうと思っています。

*タイレリア原虫:偶蹄類に東海岸熱、熱帯タイレリア症などを引き起こす。東海岸熱や熱帯タイレリア症に罹患したウシは高確率で死に至る。)

重富:
それは、フットワークの軽さを持ち続けるということでしょうか。

麻田:
そうですね。熱帯医学会にはそうした先生方が多く、私自身もその姿勢を見習い続けたいと思っています。

重富:
学生部会に向けてアドバイスやコメントをお願いします。

麻田:
学生部会に所属している時点で、すでに情熱的で強い思いを持った人が多いと感じています。大切なのは、まだこの分野に触れていない人たちを巻き込み、仲間に引き入れていくことだと思います。皆さんが持つ「やってみたい」という好奇心を大切に伸ばしてください。私たち上の世代も、それを全力でサポートできる体制を整えていきたいと思っています。

重富:
本当に多くの学びをいただきました。ありがとうございました。

2026年3月、帯広畜産大学にて。左から、麻田先生、重富千春

対談者プロフィール

麻田 正仁
帯広畜産大学 原虫病研究センター 地球規模感染症学分野 准教授。兵庫県出身。
東京大学にて博士(獣医学)取得後、帯広畜産大学原虫病研究センター研究機関研究員、
長崎大学熱帯医学研究所助教を経て現職。 趣味は読書、温泉巡り、食べ歩き。

重富 千春
長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 保健学専攻 保健師養成コース1年。福岡県出身。2025年に同大学保健学科(看護学専攻)卒業。将来は保健師として国際保健分野で活躍することを目指す。興味分野は「顧みられない熱帯病(NTDs)」「WASH」。趣味は美術館へ行くこと。