理事長就任にあたってのご挨拶
この度、2023年度日本熱帯医学会理事長に就任いたしました、琉球大学医学研究科細菌学講座の山城哲と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
日本熱帯医学会は、1959年熱帯医学研究会として発足し、今年で設立64年を迎えることとなります。熱帯医学会が扱う学問領域として、設立当初から熱帯環境において発生する感染症の基礎的研究及び臨床疫学的研究ならびに公衆衛生上の諸問題がその中心となりますが、近年は環境・生態学的研究、文化人類学的研究にも広がりを見せております。熱帯地との関わりも、熱帯地特有の疾病を専門とし、熱帯地に研究フィールドを持つ会員が多いのですが、中には専門は別にあるものの熱帯地に興味があるから入会した、とする会員も少なからずおります。このような学際的でおおらかな雰囲気の中で研究者が集い、研究について議論する中で、思わぬケミストリーが生じる学会だと思っております。2022年度に本学会から推薦した研究が、日本医学会総会奨励賞を受賞いたしましたが、新型コロナ感染症診療に従事する医療関係者の感染状況を、日本と中米某国とで比較するという、まさしく本学会の特徴が現れた内容だと思います。
当学会は、学会誌としてTropical Medicine and Health (TMH)を持っております。1973年(昭和48年)に創刊され、2023年1月現在、第51巻が発刊されました。2016年に国際誌としてBioMed Central(BMC)社と提携し、2021には98論文を掲載(アクセプト率28%)致しました。特筆すべきは90%以上が熱帯諸国を中心とする海外からの投稿だった点です。論文ダウンロード数も97万件以上と多くの科学者に支持されております。また、BMC社が発表するCiteScoreが4.2と、ここ数年急速に充実してきております。私も投稿した経験がありますが、レスポンスが早くレビュアーのコメントも真摯で適切な内容でした。我が国唯一の熱帯医学領域の学術誌として、投稿すべき雑誌のリストに加えていただきたいと思います。また本学会は、J-Tropsという学生部会を持つことも特徴の一つです。会員数が約75人で、専門家を招いての講演会の開催(オンライン)、学術大会での学生セッションの運営、夏合宿(現在はコロナ禍の影響で中止となっている)の企画など、熱帯医学領域に関心を持つ学生が、楽しそうに活動しております。学会としても支援を続けて参りたいと思います。
本学会は、先々代理事長の狩野繁之先生のご尽力により、2017年一般社団法人となり、日本医学会(日本医学会連合)の分科会に名を連ねることとなりました。熱帯医学会の本分を忘れず、会員の先生方の研究活動を支えて行く中で学会としてきらりと光る活動を続けて行きたいと願っております。私が当面の目標とするのは、臨床医学領域、薬学領域、細菌学領域、ウイルス学領域を専門とする会員の数をさらに増やしていくこと、学会を通じて熱帯地域における共同研究の機会を増やしていくこと、学部学生の活動を引き続き支援していくこと、TMH誌の更なる充実です。微力ながら努力して参りたいと思います。会員の皆様の一層のご協力をいただけますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。
2023年1月23日
一般社団法人 日本熱帯医学会理事長 山城 哲