2024/11/05
文責:吉岡浩太(長崎大学 熱帯医学・グローバルヘルス研究科)
シャーガス病は、寄生虫のTrypanosoma cruzi(クルーズトリパノソーマ)が引き起こす感染症です。この寄生虫の感染経路には、昆虫媒介性(サシガメと呼ばれる吸血性カメムシによる)、経胎盤感染、輸血感染、臓器移植による感染、経口感染、実験室での事故があります。T. cruzi感染後の臨床的進行には急性期と慢性期があります。急性期はほとんど無症候性ですが、まれに、発熱、リンパ節症、肝脾腫大、貧血、食欲不振、下痢、シャゴーマ、心筋炎、または母子感染した新生児の場合は肝脾腫大、肝炎、敗血症、髄膜炎、心筋炎、貧血などの症状が現れます。通常、数週間あるいは数カ月間続く急性期に感染者が検出されることはありません。感染者は治療を受けない限り、慢性期へと進行します。慢性期の感染者は、病型不定型(臓器への浸潤などが認められないが、感染性はある)、心臓病型(特徴的な心電図異常を1つ以上有する)、消化器病型(上部消化器の症状または下部消化器の病変部が認めらる)に分類されます。
シャーガス病は、ラテンアメリカの21カ国に特有の風土病とされます。それは、この地域に媒介昆虫のサシガメが生息しているからです。一方、人々の移動に伴い、シャーガス病はグローバルな問題となりました。今日では、世界的で600万人以上がシャーガス病に罹患し、年間の発症数は39,000例で、毎年12,000例がシャーガス病で死亡していると推計されています。日本はシャーガス病の非流行国の1つですが、推定約3,000人の感染者が暮らしていると考えられています。日本赤十字の報告では、過去にラテンアメリカに住んだことがあるなど、感染リスクのある血液提供者において、有病率は0.02%でした。別のフィールド調査によると、T. cruzi感染率は、在日ラテンアメリカ出身者の1.6%、うち、ボリビア出身者においては5.3%に上ることが示されました。
T.cruzi感染の診断は、寄生虫学的検査、分子学的検査、および血清学的検査を基に下されます。どのタイプの検査を利用するかは、病期が急性か慢性かによるので注意が必要です。概して急性期では血中の寄生虫濃度が高いため、寄生虫学的検査と分子学的検査を用います。慢性期では寄生虫濃度が低いため、血清学的検査により診断を下します。
シャーガス病の治療には、抗寄生虫薬の投与、慢性患者の基礎疾患の治療、慢性疾患で必要とされるケアなどが含まれます。T. cruzi感染の治療薬として、ベンズニダゾールとニフルチモックスという2種類の抗寄生虫薬があります。一般に、ベンズニダゾールが第一選択治療とされています。抗寄生虫薬を投与しても、すべての患者に利益があるとは限りません。治療適応の判断には、細心の注意が求められます。
シャーガス病を正確かつ迅速に診断・治療するには、患者さん自身のシャーガス病に対する概念、恐怖、偏見を把握し、社会文化的な障壁を取り除く必要があります。ソーシャルワーカーやメンタルヘルスの専門家、ピアサポートグループの関与があると理想的です。日本では、患者の多くが海外からの移住者であり、言語、政治、文化といった違いから、医療サービスを利用しにくい傾向にあります。シャーガス病に関する情報は、医学用語をなるべく使わずに、できれば彼らの母国語で提供するとよいでしょう。
詳しくは、「シャーガス病診療のためのポータルサイト」をご利用ください。